彼の望んだ世界は平穏でなければならない。

 

なぜなら、そうでなければ彼がここに来た意味はないから。

 

しかし実際はどうだろうか?

 

今この世界は平穏といえるのだろうか?

 

少なくとも彼に危害が加えられるという点を見れば私にはそうはいえない。

 

しかし彼にとっての平穏とは何かと聞けばたぶんこう返ってくる。

 

自分が幸せでなくとも家族や近しい人が幸せになってほしいと。

 

確かに自分の家族や近しい人が幸せならば自分にとっても幸せになりえるのかもしれない。

 

彼にとってそれが平穏であり自らの幸せだというのなら私は何もいわない。

 

でも、現実はどうだろうか?

 

自分の幸せだけでなく家族や知り合いの幸せさえも守ることができなかった。

 

そしてそんな現実から彼は逃げた。

 

だから私は彼にこの世界を与えた。

 

ここなら彼の望みも彼の幸せも掴むことができると思ったから。

 

だからあえてもう一度言う。

 

彼の望んだ世界は平穏でなければならない。

 

それが彼の望んだ幸せだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の望んだ世界

 

第八話 敵の狙い 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリープの一撃を受けて恭也は壁の方まで吹き飛んだ。

壁に強く背中を打ちつけた恭也は小さく呻くとゆっくりと崩れ落ちる。

灯夜とユリエルはすぐさま恭也のもとまで近寄ろうとするがその前をクリープが立ちふさがった。

 

「くっ」

 

灯夜は鎌でクリープめがけて一閃する。

クリープはそれを腕で受け止める。

しかし同時に閃光がクリープの体の黒い部分めがけて放たれる。

放たれた閃光は狙い通りの場所にあたりクリープが一瞬怯む。

 

「今だ!!」

 

灯夜はユリエルの攻撃によって隙の出来たクリープの胴体に鎌をぶつける。

するとばきんっと言う音と共にクリープの核を守っていた装甲が砕けた。

灯夜は露出したクリープの核に二撃目を放つ。

その斬撃によりクリープの核は砕けクリープは消滅した。

クリープの消滅を確認した二人はすぐさま恭也のもとへ駆ける。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「ぐ……あ、ああ」

 

打ち付けた背中に多少痛みを感じながら恭也は頷く。

外傷も特になくしっかりと頷いた恭也に二人はほっとする。

 

「ほんとにごめんなさい……私たちがもう少し早く駆けつけていれば」

 

「いや、これといった外傷もないし結果的に大丈夫だったから」

 

恭也はそういって微笑を浮かべる。

 

「でも、なんであのクリープは恭也を狙ったんだろ?」

 

「そうね…一方を囮にするなんていう知能はいままでには」

 

そこでユリエルは思い出したように灯夜を睨むように見る。

 

「今のどたばたで忘れるところだったわ。 なんでクリープの気配を感じたにも関わらず言わなかったのよ」

 

「ユリエルも違う方向に気配を感じたって言ったし、どうせ言っても信じないと思ったからだよ。 ユリエルは普段僕をばかにしすぎてるからね」

 

皮肉気に灯夜はそう言う。

それに少し苛立ったユリエルは同じように言葉を返す。

 

「だったらばかにされないようにしてみたら?」

 

その言葉に灯夜もカチンときたのかユリエルを睨む。

そして二人の間に火花でも散っているのではという感じに睨み合う。

 

「ああ……とりあえず移動しないか?」

 

そのままにしておくのはまずいと思ったのか恭也はそう言う。

二人は恭也の言葉を聞いてかふんっと言って顔を背けると歩き出した。

それを見て溜め息をつきながら恭也も続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所が変わってなぜか翠屋の前。

二人の険悪な雰囲気でただでさえ居心地が悪い。

それに加えて自分の母と姉的存在、そしてもしかしたら妹兼弟子もいるかもしれないというそこに入るのはできれば恭也としては遠慮したかった。

だがそこに来てしまった以上いまさら場所を変えることもできず恭也は意を決して中へと入っていった。

 

「いらっしゃいませ〜…て、恭ちゃん?」

 

恭也の予感は的中した。

 

「ああ……手伝いか?」

 

「あ、うん。 読んでた本も見終わっちゃったしやることもないしね」

 

そのまま家にいればいいものをと思ったが口には出さなかった。

 

「とりあえず案内してくれるか?」

 

「あ、はい、こちらへどうぞ」

 

美由希に案内され三人はボックス席に座った。

ちなみに隣同士で座った灯夜とユリエルはかなり間を空けていた。

しかも険悪な空気がかなり漂っている。

できるならその場をはやく立ち去りたいとさえ恭也は思った。

 

「あ、あの……メニューになります」

 

明らかにびくびくした感じでバイトの子がメニューを差し出す。

恭也はとりあえず空気の中和を図ったのか微笑を浮かべてありがとうといいメニューを受け取る。

すると今度は顔を赤くしてその場を去っていってしまった。

恭也はそれに首を傾げ、あまり声をかけたくはなかったがそういうわけにもいかず声をかける。

 

「……メニューだ」

 

「「ありが」」

 

声まで合わせて同時に手を出し灯夜とユリエルは顔を見合わせぷいっと背ける。

 

「「お先に」」

 

またも声が合わさる。

それにますます険悪な空気が増す。

恭也はメニューを持った手を差し出したままどうしたものかと考える。

 

「と、とりあえず灯夜から決めてくれ」

 

「じゃあ、そうさせてもらうよ」

 

そう言って灯夜はメニューを受け取る。

恭也は内心ほっとする。

灯夜は品を決めたのか無言でテーブルのユリエル側に置く。

ユリエルはそれを手にとってすぐ品を決めたのか恭也に差し出す。

 

「すみません、注文いいですか?」

 

「あ、は、はい……」

 

呼び止められたバイトの子はそう返事する。

視線は恭也のみに向いているのはたぶん二人を直視できないからだろう。

しかもその呼び止められた子はさっきと同じ子だった。

恭也は気の毒にと思いながら注文する。

注文を受けたその子は逃げるように奥へと入っていった。

 

「……」

 

「「……」」

 

険悪な空気が拭われぬまま気まずい沈黙が流れる。

そこに後ろのほうから声が聞こえてきた。

 

「恭也、ちょっと」

 

呼んだのは店長兼母の桃子だった。

恭也はなんとなく言いたいことはわかっていたがあえて桃子のところへいった。

 

「あの二人、あんたの知り合いでしょ? どうにかしなさいよ! あの席の周りに誰も座りたがらないじゃない!」

 

「確かに知り合いだが……俺にどうしろと?」

 

「いいからはやくどうにかしなさい! これは家長命令よ!」

 

恭也は理不尽にそう言う桃子に溜め息をついて二人のところへもどる。

気のせいか険悪感がさらに増してるような気がした。

 

「二人とも……お客さんが迷惑してるからその辺にしてくれないか?」

 

仲直りしろとまでは言わないがせめて空気を和らげろといった意味合いで言う。

だがそれは二人の導火線に火をつけることになってしまった。

 

「「だってユリエル(灯夜)が!!」」

 

二人は顔を合わせてまた睨み合う。

 

「「なんだよ(なによ)!!」」

 

「はぁ……」

 

恭也は頭を抱えて溜め息をつく。

その間も二人は睨み合い口喧嘩をしていた。

 

 

 

 

 

結局、その口喧嘩は店を出るまで(小一時間)続き、店に多大な迷惑をかけたそうな…。

 

 


あとがき

 

 

後編終了〜、疲れた〜。

【咲】 じゃあ次行きましょうか?

え、えっと……。

【咲】 長いことこの作品を更新しないでまさか休みたいとか言わないわよね?

えっと……そのね。

【咲】 言わないわよね?

うう……はい。

【咲】 よろしい。じゃあすぐ次を書きなさい。

鬼!!悪魔!!人でなし!!

【咲】 何か言ったかしら?

ナ、ナンデモナイヨ?

【咲】 そう……えい。

ふぎゃ!!

【咲】 でもすぐさま次の執筆へGO〜!!

うう……。





とりあえず、クリープは撃退できたみたいだな。
美姫 「しかし、あのクリープはとんでもないお土産を置いていったわね」
あ、あははは。
美姫 「二人の不仲。いや〜、間に挟まれた恭也も可哀想にね」
さてさて、一体どうなるのやら。
美姫 「気になる続きは、この後すぐ!」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る


inserted by FC2 system