食事の用意を始めてしばし、皆はすでに打ち解け合っていた。

互いのことを話したり話されたり、冒険のことをいろいろと聞いたり聞かれたりしながら一同は盛り上がりを見せる。

まあ、少年―ジャスティンや少女―スーが恭也たちのことや冒険でのことを聞いてきても大半はぼかして話すしかなかったのだが、それでも楽しそうに聞いてくれる二人には少々申し訳なさを抱かずにはいられなかった。

そして反対にリリスはというと、最初こそ手伝ってはいたのだが今は水を入れて火に掛けてある鍋の前でジッと座っていた。

それを横目で見た恭也はまた飽きたとか言ったんだろうな、と考えながら呆れを抱いたのだが、実際は違っていた。

というのも、自分よりも手際が圧倒的にいいフィーナを前に自分が手伝う意味があるのだろうかと思い始めたリリスは、あろうことかケンを掴んで料理の材料にすべく、包丁で捌こうとしていたのだ。

さすがにそれを許容できるフィーナではなく、慌ててリリスを止めると同時に手伝いはいいからと言って鍋の前で待つようにお願いした。

そして、ケンにリリスの前へ行かないに言い(言われなくても行かないだろうが)、今に至るというわけである。

 

「ひま〜……ケンちゃ〜ん!」

 

「な、なんでっしゃろか〜?」

 

「ちょっとこっち来て〜」

 

「え、遠慮しときます〜」

 

鍋前待機を言い渡されてから、このやり取りは何度となく繰り返されている。

しかしまあ、包丁で捌かれそうになったケンからしたら絶対に近寄ろうとするはずもなく、結果としてリリスは暇地獄に舞い戻る。

まあ、リリスがこうやって暇を持て余すのは本人の自業自得であろうが、それを突っ込む者は誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤミと剣士と本の旅人

 

【グランディアの世界編】

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それからしばし時間が経ち、夕日が沈みきった頃にようやく食事は完成した。

完成した食事を前にした途端、ほっとかれて拗ねていたリリスも機嫌を直し、鍋を囲むように皆は座る。

そして各自に椀を配り、鍋から椀へと軽く盛ったところで合掌をして食べ始めた。

 

「ふむ……美味いな」

 

「ほんと……冒険者だっていうから、結構雑な味を想像してたのに。 普通にいけるわね」

 

「あはは、ありがと。 正直二人の好みがわからなかったから少し不安だったんだけど、そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

「どれどれ、ワテも一口、ぶっ!?」

 

「鍋の具材にもなれなかったくせに何言ってるのかしら、この鳥は?あんたみたいなのは、その辺でミミズでも取って食べなさいよ」

 

「こ、こないな全面石で舗装されてるような場所でどないしてミミズ取れって言うねん……」

 

「じゃあ、下にでも戻って取ってくればいいでしょ」

 

「せ、殺生な……」

 

あくまで食べさせる気がないリリスの態度にケンは器用に右の翼で流れ出る涙を拭う。

しかし、ケンが泣き出してもリリスはまったく気にした風もなく、それどころか鬱陶しいわねというような視線を向ける。

この様子を見ると、どうやら先ほど呼んでもこなかったケンのことをかなり根に持っているようにも見える。

まあ、そうだとしても自業自得なのだから怒るのはお門違いだし、そうじゃないと言われてもリリスのいつもの様子を思い出せば納得してしまう。

 

「あの、お姉さん……少しくらい分けてあげても」

 

「おお、スーはん……なんてお優しいんや。 リリスはんとはえらい違いや」

 

スーの好意に感謝するのはいいが、一言多いところに気づかない辺りはやはりケンである。

 

「しょうがないわね、ほら」

 

自分の椀から肉一枚を取り出し、即座にケンの頭に乗せる。

肉のくせに水分をたっぷり含んでる上、それはまだ鍋から取ったばかりの熱々だった。

故にそれを頭に乗せられたケンは、声にならない悲鳴を上げて地面をのた打ち回る。

その光景にリリスは目も向けず、まるでいい気味だというかのようにスルーして食事を再開していた。

 

「な、なあ……あれ、放っておいていいのか?」

 

「別に構わないでしょ。 ケンちゃんのことだから、あと一分もしないうちに復活するだろうしね」

 

まったく問題ないと言うようにそう言うリリスに、ほんとにいいのかなとジャスティンは疑問を抱く。

だがまあ、恭也のほうを見ても同じく問題なさげに食事を続けているので、とりあえず自分もそう思うことにした。

その一分後、ほんとにリリスの言うとおり、のた打ち回っていたケンは復活を果たすこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後、多少の雑談をした後にリリスはスーやフィーナと共にテントの中へと引っ込んでいった。

本来ならジャスティンとその二人で使っていたテントなのだが、さすがに五人が一緒に寝るにはそのテントは狭すぎる。

そのため、恭也が外で寝ると言ったのにジャスティンも付き合い、結果として女性陣は揃ってテントで寝ることになったのだ。

そして今、恭也とジャスティンは焚き火を前に、調理時のときに話していた話題を再び話していた。

 

「へ〜……じゃあ、キョウヤたちはその、大切なものっていうのを取り戻すために旅をしてるんだな」

 

「そういうことになるな。 まあ、どこにあるのかとかはまるでわからんから、正直終わりの見えない旅だがな」

 

「ふ〜ん……その大切なものっていうのがなんなのかわからないけど、そんなに見つけにくい物なのか?」

 

「まあ、な……」

 

正直、見つけにくいというレベルの問題ではない。

何百、何千、何万……いくらあるかも正確にはわからない本の世界の中から、ほんの数枚のページを探す。

本当にそれは終わりが見えず、自分が生きているうちに見つかるのかすらもわからないような旅。

ジャスティンと話している内にそれを思い出し、返した返事が少しだけ重々しくなってしまうのは否めない。

しかしまあ、何時までもそんな雰囲気でいるわけにもいかず、恭也は話題を変えるため口を開いた。

 

「ところで、ジャスティンたちの旅はどんな旅なんだ?」

 

「オレたちの旅? う〜ん……まあ、キョウヤなら言っても大丈夫か」

 

「む、そんなに重大な目的なのか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど……ま、言っちゃうと、エンジュールを見つけるための旅かな」

 

「エンジュール?」

 

「ああ。 前まではただの神話の中の世界で、おとぎ話だと思ってたんだけど……リエーテっていう女の子が教えてくれたんだ。 エンジュールは神話やおとぎ話じゃない、本当に実在した世界、文明なんだって」

 

「なるほどな……つまり、ジャスティンたちはそれを自分の目で確かめるために、旅に出たというわけか」

 

「そういうこと! まあ、フィーナは途中から一緒に旅するようになったから、旅に出た当初はオレとスーだけだったんだけど」

 

「ほう……それはまたなんというか、大変だったんじゃないか? ジャスティンはいいとしても、彼女はまだ少し幼いわけなのだし」

 

「まあね。 だから、オレも最初は一人で行こうと思ったんだけど……」

 

そのときのことを思い出し、ジャスティンは小さく溜め息をついた後に詳細を話した。

それによると、なんでも故郷を出る際に自分もついていくと言うスーに対して、少しきつめの言葉で自分一人で行くという意思を示した。

しかし、出発の日になってもスーが現れないことから諦めてくれたと思い船に乗り込んだのも束の間、あろうことかその説得で納得しなかったスーが密航しているところを船乗りに見つかってしまったのだ。

とまあ、そのときスーは危うく樽流しに合いかけたが、ジャスティンと共に目的地につくまで見習い船員になることでそれは免れた。

そしてその後もフィーナと出会ったり、幽霊船騒動があったりといろいろありながらも現在に至る、というわけである。

 

「それは……またずいぶんと大変だったんだな」

 

「ああ。 でも、何もないよりはあったほうがマシだし、冒険者なんだからその程度でへこたれてられないさ!」

 

今までのことを思い出しつつ楽しそうに語るジャスティンに、恭也は小さく苦笑して相槌を打つ。

そしてその後もしばしジャスティンたちの今までの冒険談を聞き、いい時間になったところで二人は眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、日が昇り始めたばかりの早朝。

そんな早くに恭也は目を覚まし、意識がはっきりとしてきたところで上体を起こす。

そしてジャスティンがまだ寝ているのを視界に捉えた後、いつもの鍛錬が出来ない分、少し運動しておこうと思い起き上がる。

が、起き上がったが矢先、後ろにあるテントからガサガサと音がし、振り向くと同時に驚きの光景が目に映った。

 

「おはよ〜、恭也。 相変わらず朝早いわね〜」

 

「……」

 

寝ぼけ眼でテント内部から現れたリリスを、恭也は信じられないものでも見るような目で見る。

というのも、リリスは朝にかなり弱いのか、遅いという言葉が生易しく感じてしまうくらい激しく起きるのが遅いのだ。

以前もあまりの遅さに見かねて恭也が起こそうとしても起きず、ケンが起こそうとしたら蹴飛ばす始末。

故に、リリスがこの時間に起きてきていることが、本当に現実かと疑いたくなるくらいの光景だったりする。

 

「ん〜……どうしたの? 私を直視したまま固まっちゃって」

 

「いや、リリスがこの時間に起きてくるなんて思わなかったからな……」

 

「ぶ〜……私だってたまには早く起きるわよ」

 

「それを毎日続けてくれるとこちらとしては助かるんだがな」

 

「それは無理」

 

きっぱり断言され、恭也は溜め息をつかざるを得なかった。

そんな恭也にリリスは再び膨れ面を見せつつ、小さく伸びをしてからゆっくりと恭也の隣へ歩み寄る。

 

「ねえ、恭也……昨日、ジャスティンと何を話してたの? 結構盛り上がってたみたいだけど」

 

「ん、そう大した話じゃない。 何のために旅をしているのか、今までどんな冒険をしてきたのか……そのくらいなものだ」

 

「ふ〜ん……」

 

リリス自身も大したことじゃないと思ったのか、返す言葉は短くそれだけ。

そしてそこから会話が途絶えてしばし、ふと恭也は昨日の話の件で疑問に思ったことを思い出し、リリスへと尋ねた。

 

「リリス……エンジュールというのは、何かわかるか?」

 

「エンジュール? ん〜……確か、遥か昔に存在した文明の名前で人と精霊との約束の地、だったかしらね」

 

「……それは、実在するのか?」

 

「ん〜、実在するというより、実在したというほうが正しいわね。 神話やおとぎ話として語り継がれるくらい昔の話だから、さすがに今は存在しないわ。まあ、エンジュールのすべてが失われてるわけじゃないけど……例えば、光翼人とかね」

 

「光翼人?」

 

「背中に翼を持ち、エンジュールと共に生きた種族のことよ。 ほとんどもういないんだけど……絶滅したわけじゃないから、一応現代にもいるわ」

 

「ふむ……なら、その光翼人と会うことが、エンジュールの探求に繋がるということなのか?」

 

「さあ? さすがにそこまでは詳しく覚えてないわ……でもまあ、光翼人にしても、エンジュールにしても、いずれ時がくれば見つかるんじゃないかしらね」

 

話をそこで打ち切り、リリスは小さく欠伸をして火のついていない焚き木前へと腰掛ける。

恭也はリリスが腰掛けてからしばしいろいろ考えた後、今はどうしようもないと考えて思考を止める。

そして、テントから少し離れた場所へと移動し、準備運動や素振りなどといった軽い運動を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也とリリスが起きてからおよそ一時間程度。

皆が順々に起きてきた後に朝食を軽く食べ、テントを片してから『世界の果て』登りを再開した。

進んでほとんど間もなく、トラップやら魔物やらが多くなってきたが、それまでの行程で慣れている一同は難なく回避して登っていく。

しかしまあ、登り始めて早一時間が経過した後、上を見上げてもまったく登った感が出てこないことに、リリスが再びごね始めた。

曰く、何時になったら頂上に辿り着くのか、もう面倒くさいから帰りましょう、などなど。

駄々を捏ね始めたリリスに慣れていないジャスティンたちは困り顔を浮かべるしかなく、そのたびに恭也にどうにかしてくれと矛先が回ってくる。

そしてそのたびに恭也が何度も何度も宥めるという行為を続け、現在に至っては……

 

「ん〜、やっぱりこれが一番楽チンよね」

 

「それはそうだろうな。 自分の足で歩いてないんだから」

 

前と同じく、せがまれるままにリリスを背負う羽目になってしまっていたのだ。

 

「リリスはん、ほんまに幼児退行してまんなぁ。 というか、これはもう幼児そのもぶっ!」

 

「うっさいわよ、黄色饅頭」

 

それもまた以前と同じく、余計なことを口にしたケンが殴られるということもあった。

とまあ、リリスを背負っているからと魔物を蹴散らすことをジャスティンたちがしつつ、皆は揃って『世界の果て』を登り続ける。

そして登り続けること更に二時間、ようやく満足したリリスが恭也の背中から降りたかと思うと、今度は突如傍を飛ぶケンを掴む。

 

「な、なにしはるや、リリスはん」

 

「ん〜、ちょ〜っとケンちゃんにやってほしいことがあってね〜」

 

「な、なんや……やってほしいことて」

 

「簡単なことよ。 今度魔物が出てきたときに、あれと同じことをやってほしいのよ」

 

あれと言って指差す先にあるのは、スーの頭上にいる鳥らしき生物―プーイの姿。

それを見た瞬間、ケンはまさかというような表情を浮かべ、恐る恐るリリスへと尋ねる。

 

「ま、まさかリリスはん……ピンクのポンポン持ってワテと一緒に応援がし、ぐえぇ!」

 

「なんであんたとそんなことしなきゃならないのよ。 私が言ってるのは、もう一つのほうよ」

 

「な……無茶いいなんなや、リリスはん。 ワテみたいなのにプーイはんと同じ動きができると思うてるんでっか?」

 

「私は出来る出来ないは聞いてないわ。 やれと言ってるのよ」

 

怖い笑み、自身を握る手に篭っていく力。

その二つに、ケンは頷かなければ殺られると瞬時に悟り、凄まじいスピードで首を縦に振る。

それにリリスは満足げに頷き、込めていた力を緩めてケンを解放する。

 

「ほ……」

 

解放されたケンは安著の息をつき、パタパタと飛びながらその後のことを考える。

魔物が現れたときに、如何にしてリリスから逃れるかということを。

しかし、その考えを見通しているかの如く、リリスは先ほどの笑みを再び浮かべて口を開いた。

 

「言っとくけど……逃げたら今度こそ鍋の材料にするからね」

 

「ひいぃぃ!!」

 

その笑みと放たれた言葉に、ケンは悲鳴を上げつつ震え上がる。

それに恭也もジャスティンたちもケンを哀れに思いながらも、助けると自分に矛先が向きそうなので見て見ぬ振りをした。

 

「楽しみね〜、ケンちゃん♪」

 

魔物が出たときのことを想像して楽しげな笑みを浮かべるリリスと正反対な表情を浮かべるケン。

二人の浮かべる相反した表情が、この日の内でとても印象に残るものだったという。

 

 


あとがき

 

 

まあ、これで次回はケンが酷い目に合うお話が決定だな。

【咲】 というか、いつも酷い目にあってると思うけどね。

まあねぇ。 まあどんな酷い目に合うのかというのは、グランディアを知っている人にしかわからない。

【咲】 確かにね。 スーの技でプーイを利用するスキル、グランディアを知っている人ならこれだけでわかるわね。

だな。 ともあれ、次回はようやく『世界の果て』終盤に差し掛かります。

【咲】 『世界の果て』だけでこのくらいなら、グランディアの世界編はどのくらいになるのかしらね。

ん〜……当初はあまり長くするつもりなかったんだけど、この分だと二十はいくかもしれん。

【咲】 まあ、実際進んで見ないとわからないわよね。

まあな。 にしても、今回エンジュールの話をちょこっとしたけど、ほんとうろ覚えだったから苦労したよ。

【咲】 だったらもう一回プレイしたらいいじゃない。

やってるよ、言われるまでもなく。

【咲】 じゃあなんでわかんないのよ。

そこまで進んでないからに決まってるだろ。

【咲】 おっそいわね〜……。

無茶言うなや! 執筆の合間縫ってやってんだからしょうがないだろ!

【咲】 はぁ……。

く……。

【咲】 ま、そんなどうでもいいお話は置いといて、次回は『世界の果て』終盤ということだけど、他にこれといったことはないわけ?

ん〜……ケンのこと以外だと、とあるモンスターとの戦闘くらいなものかな。

【咲】 とあるモンスター?

ああ、『世界の果て』に出てくる、でっかい鳥型のモンスターだ。

【咲】 ああ、あれね。

まあ、そんなわけで、次回は戦闘が結構占めるかもしれん。

【咲】 そう。 じゃあ、今回はこの辺でね♪

また次回も見てくださいね〜ノシ




ケンちゃん、頑張れ……。
美姫 「なに、共感したような声を出してるのよ」
いや、何でか他人事とは思えなくてな。
美姫 「アンタも苦労してるのね」
原因……。
美姫 「何か言った?」
な、なんも言ってませんで。
気のせいとちゃいまっか?
美姫 「はいはい。さーて、次回のケンちゃんはどんな目にあうのかな?」
何が起こるのかな。次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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