「取り合えず移動しよう・・・また連中が戻ってこないとも限らないし。」
 恭也は二人の少女、那美と綾にそう言うと、先導して歩き始める。
 「そうですね、行きましょう神城さん。」
 「はい神咲さん。」
 那美が綾を促し、二人は恭也の後を追う。


 海鳴の巫女      No.02「剣士、巫女と語らう」


 ロータリーから離れた三人は、商店街入り口の小さな広場に一時退避する。
 先ほどの騒ぎは人の目を集めすぎたので、ほとぼりが冷めるまでここに居る事にしたのだ。
 「それにしても・・・高町様はお強いのですね。」
 広場の小さなベンチに二人を座らした恭也に、綾が聞いてくる。
 「・・・それほどでもありません。まあ多少は覚えもありますが・・・・」
 それとなくとぼける恭也。綾の表情は穏やかだが、彼女の緑色の瞳は何かを見抜くようにこちらを見ているのだ。
 恭也はそれが、己の中にある剣士の部分を見ているのではないか、そんな気にさせられていた。
 一方恭也の方も綾から、ただの巫女とは思えないものを感じ取っていた。それは隣に座っている那美と同質なもの。
 何かに対して戦う事を運命付けられた者が持つ雰囲気みたいな物を綾から感じるのだ。
 それに綾が肩に掛けている細長い袋状の物・・・たぶん刀を入れてあるのだろう・・・から感じるその力はいったい・・・・・・
 「これが気になりますか高町様?」
 「!?」
 座っていたと思っていた綾が何時の間にか立ち上がり、細長い袋を右手で持って、恭也の目の前に掲げていた。
 先ほどとはうって変わって厳しい表情をした綾から、研ぎ澄まされた意思の力が発せられている。
 それが恭也に剣士としての構えを本能的に取らしていた・・・・それは綾と対峙していない那美も同様に・・・・
 傍から見たら滑稽だったかも知れない・・・・・・
 少女が細長い物を青年の目の前に掲げ、それを目にした青年が手を腰の後ろに伸ばしたまま動作を止めている姿は・・・・・
 暫し本人達にしか分からない緊張感が続いた後、それは唐突に消えた。綾は何事も無かったように腰をベンチに下ろした。
 そして綾は先ほどの穏やかな表情に戻り、恭也と那美はそれを見て構えを解く。
 「高町様が思っておられる通り、私はただの巫女ではありません・・・・」
 瞳に強い意志を浮かべた神々しい少女の声が、恭也の耳に届く。
 「『妖』を封じる事を使命とする、『封印の巫女』なのです。」
 「神城さん・・・その事は・・・・」
 綾の告白に那美が心配そうに聞いてくる。その事から今の告白が重要なものである事が、恭也にも分かった。
 「・・・・構いません。高町様なら受けいれて頂けると信じてますから、神咲さんの事情と同様に。」
 那美が息を呑む・・・どうやら彼女はそこまで俺達の事を見抜いているらしい・・・・恭也はそう悟る。
 「信頼に応えられるように心しよう・・・・俺をそこまで信じてくれる君の為にも。」
 『妖』についてなどたくさん聞きたいこともあったが、恭也は敢えて質問しようとは思わなかった。
 時が来れば綾はきちんと教えてくれるという確信が恭也にはあったのだ。
 全てを了解したという恭也のその言葉に、綾はただ微笑を浮かべ頷くのだった。
 ・・・・この間二人の間に漂う侵しがたい物の為に、那美は口を挟む事すら出来なかった。
 
 「高町様にはご迷惑をお掛けいたしました。それではまいりましょうか神咲さん。」
 やがて綾はまるで何事も無かったようにそう言うと立ち上がる。
 「そうですね。恭也さん、今日はありがとうございました。」
 那美も立ち上がると会釈し、綾と共に広場を出ようと歩き始める。その那美に恭也が声を掛ける。
 「・・・・那美さんと神城さんはこれから神社の方へ行くのか?」
 「はい、神城さんは暫く家の神社に滞在する予定なので。あの・・・それが?」
 何かを考えているようだった恭也は、二人の傍に近寄ってきて言う。
 「だったら送ろう・・・またさっきの連中みたいなのが現れるかもしれないし。」
 その言葉に綾は那美を見て、頷くと恭也に言う。
 「そうですね、また神咲さんを狙う不埒者が出ないともかぎりませんし。」
 「「・・・・・・・・・」」
 そんな綾の言葉に、恭也と那美は動きが止まる。
 「・・・・どちらかと言うと神城さんの方が心配だと思いますけど。」
 駅前の事は彼女がいたからこそあんな連中が声を掛けてきたのは明白だ、と那美は思うのだが。
 「まさか? 私のような地味な人間にそんなことあるわけないですよ。」
 だがそんな那美の控えめな指摘を、綾は笑って否定する。
 「地味って・・・・」
 綾の答えに那美は彼女の全身を見る・・・・足首まである青いロングスカートに、飾り気の無い白のブラウスという姿。
 確かに同じ年代の女の子に比べればスカート丈は異様に長い。那美ですら膝丈だというのに。
 それに白いブラウスの組み合わせは、正直洗練されているとは言えないだろう。
 しかし、普通だったら地味と言えるのかもしれないその格好が、彼女の場合はちっともそう見えないのだ。
 それはつまり綾がそんな地味な服装でも、見事に着こなしてしまう魅力の持ち主だからだと那美は思うのだが。
 「私も神咲さんほどの器量があればいいのですが・・・・」
 綾の言葉はけっして謙遜している訳でも、那美を馬鹿にしている訳でもないようだった。つまり本気でそう思っているらしい。
 「いや・・・そんな事は無いと思うのだが・・・・なあ那美さん、神城さんってもしかして自分の事分かっていないんじゃあ?」
 恭也が困惑した表情で那美に聞いてくる。だが聞かれた那美は答えない・・・先ほどから妙なデジャブーに囚われていたからだ。
 自分の容姿が他人をどれほど引き付けてしまうかという認識が無く、地味な格好なのにまったくそう見せない。
 ・・・・何だか身近にも似たような人が居たような気が先ほどから那美はしていたのだ。
 「・・・・それって恭也さん?」
 唐突に那美はその人物に思い当たった。何て事は無い、今、すぐ傍に立っている彼女の想い人である恭也だ・・・・
 「那美さん?」
 「あ・・・ごめんなさい恭也さん。」
 頭を振ってその考えを頭から追い出す・・・何しろそのままでは綾と恭也がお似合いだと考えそうだったからだ。
 「ところで神城さん、”様”っていうのは止めてもらえるかな・・・・俺は様付けされるほど偉い人間ではないし。」
 「・・・・お気に触ったらお許し下さい。年上の方には様付けでお呼びするのが、私の通う学院の慣わしだったので。」
 そう言って微笑を浮かべる綾に苦笑いを浮かべる恭也。先ほどと同じ侵しがたい雰囲気が二人の間に漂う。
 ・・・・・・やっぱりお似合い?那美はそんな思いに囚われ、意外なライバルの登場に複雑な心境になった
 
 広場を出た三人は商店街を抜け、那美の神社に向かう。道中これといったトラブルも無く到着する。
 「それじゃ俺はここまでだな・・・・二人はこの後どうするんだ?」
 境内に続く石段の前で、恭也は二人に尋ねる。
 「この神社の宮司様に挨拶を済ませたら、夜を待って、街を神咲さんと回るつもりです。」
 綾がそう答えるのを聞いて恭也は眉を顰める。何しろあんな事があった後だ、二人だけでというのは無謀に感じる。
 「・・・もしよければだが、二人に同行させてほしい。もちろん邪魔をするつもりはない。何なら隠れていてもいい。」
 恭也の申し出に綾はまるで探るような視線を向けてくる。一方、那美は嬉しいような困ったような、複雑な顔をしている。
 「すまん、俺が同行するなんて不愉快かもしれないが・・・」
 「いえ・・・高町様に他意があるとは思っておりません。ただ・・・非常に危険が伴います。」
 気を悪くしてしまったと思った恭也が謝ろうとした言葉を、綾は穏やかに遮って答える。
 「・・・私では判断しかねるのですが、神咲さんはどうなさりますか?」
 「恭也さんには、過去何度か私が仕事をする時にサポートしてもらったことがあります。」
 那美の言葉に綾は頷くと、恭也を見て言う。
 「分かりました・・・ただそうであれば高町様に心して頂きたい事があります。暫くお付き合い願えますか?」
 「ああ構わないさ、那美さんも良いか?」
 「はい、是非お願いします恭也さん。」
 三人は頷き合うと、石段を登り、境内を通り、社務所に向かう。

 海鳴に何かが起ころうとしていた・・・・・だが今それを知るのは二人の巫女と剣士のみだった。



 あとがき

 海鳴の巫女の第二話をお送りします。
 巫女好きの皆様(笑)、いかがだったでしょうか? 本格的な活躍(?)は次回以降になりますので、お待ち下さい。
 それにしても巫女好きの方って多いんですね、まあ私もそうなんですが。やはり清楚な印象が強いからでしょうか?
 その辺は男の勝手な妄想(笑)なんでしょうけど・・・・
 ちなみに私は本物を見たことがありません。近くに神社はあるんですが。
 ところで、美姫様は巫女服を着用なさらないのでしょうか? きっとお似合いになると思うんですが。

 それでは次のお話でお会いしましょう。


海鳴に一体、何が起ころうとしているのか!?
そして、恭也と同じように鈍感な彼女はこの先、どうなるのか。
いやー、楽しみだなー。
……って、おーい、美姫〜。
美姫 「じゃっじゃーん」
おお! その格好は。
美姫 「美姫ちゃん、巫女ヴァージョン!」
パチパチパチ。素晴らしい。
グッジョブ、美姫!
美姫 「イエーイ」
(お互いに親指を立てて相手に見せる二人)
しかし、確かに清楚さを感じるが、同時に闘う巫女さんって感じもするな。
美姫 「やっぱり、巫女姿で帯剣はまずいかしら」
いや、それはそれでOKだ。
美姫 「あっそ。って、それよりも、何で巫女服があるのかという方が不思議なんだけどね」
まあまあ。それは置いておいて。
美姫 「そう言えば、メイド服もあったわね」
美姫メイドヴァージョンだな。あれも実に良かった。
美姫 「ふっふ〜ん。素材が良いからね〜」
うんうん。
美姫 「…珍しいわね、アンタが素直に認めるなんて」
まあ、たまにはな。
美姫 「まあ、褒められて悪い気はしないから良いけどね」
さて、それより、次回が気になるな。
美姫 「確かにね。そして、剣士と巫女の関係も気になるわね」
うんうん。これから、どんな展開を見せるのか、非常に楽しみだ。
美姫 「次回も、楽しみに待ってますね」
待ってまーす。



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ



          


inserted by FC2 system