神社を出て歩く、二人の巫女服の少女達と、その後を音も無く静かに付いてゆく黒ずくめの男性。
 ある意味異様な組み合わせだ。現にその姿を見た連中は、例外なく驚いた顔を見せている。
 もっとも当の3人は気にすることも無く歩き続け、数日前に那美が戦った公園に到着する。
 公園内は静かだった。夜になったとはいえ、まだ人通りがあってもおかしくはないのだが。
 実はそれには理由がある、ここ数日の怪現象で、誰も寄り付かなくなっていたのだ。
 「さて・・・これからそうするんだ?」
 恭也が綾に尋ねてくる。
 「取り合えず公園内を回ってみます・・・・『妖』の気配は感じるのですが、どうも広く分散しているみたいで・・・」
 封印の巫女である綾は、『妖』の存在を遠くからでも感じる事が出来るらしい。
 「数も多いのか?」
 公園内を注意深く見渡しながら恭也が聞く。
 「・・・思ったより多くの『妖』が放たれたみたいです。ただ救いなのは大多数がまだ不活発な事です。」
 綾の話では、封印が解かれた直後の『妖』は封じられていた影響で暫くは活動が鈍いらしい。
 「ですから封印するには今が最適といえます、逆に遅れれば遅れるほど・・・・」
 「奴らを活性化させてしまうわけか・・・・それなら急いだ方がいいな。」
 恭也は綾の言葉に肯いて答える。
 「はい・・・神咲さん、サポートをお願いします。」
 傍らで綾同様に刀を持って立っている那美に彼女は声を掛ける。
 「わかりました、行きましょう。」
 3人は人気の無い公園に踏み込んで行く。


 海鳴の巫女    No.04「剣士、巫女の闘いを見守る。」


 街の中心にあるこの公園は結構広いうえに木が多く、昼間でも薄暗い所がある。まして夜間になれば一層闇が濃くなる。
 そんなところだから事件前はアベックや暇を持て余した若者などが入り込んでいたのだが、今は誰の姿も見えない。
 所々立っている街灯の光以外はまったく無い公園内を、先頭は綾、その後ろを那美、しんがりを恭也という隊形で進んでゆく。
 「妙に静かですね。」
 那美が周囲を注意深く見ながら話す。小声で話しても周りが静か過ぎるのでやけに響く。
 「確かにな・・・・それに今まで感じたことのない気配がする。」
 同様に周りを監視しながら歩く恭也が答える。剣士としての勘が尋常ならざる物の存在を嫌でも教えてくれる。
 ふと、先頭を歩く綾が歩みを止める。後続の二人も合わせて立ち止まり、前方を見つめる。
 何かが居る・・・・闇を見つめる綾の背中から放たれる緊張感に、恭也と那美は知らずの中に身構える。
 キキキ・・・・
 前方の闇で何かが蠢く、綾は御神刀を鞘から抜き、刃先を地面に向け構える。ごくり・・・・誰かの唾を飲み込む音がして・・・・
 ギャァァ!!
 何かが闇から飛び出し3人に襲い掛かってくる。
 「蒼き浄化の炎よ、我に従い、邪気なるものを、封印したまえ・・・・!」
 次の瞬間、綾の透き通る声が響いたと思うと、青い残光が走り、彼女の振り上げた刀から力が放たれるのが分かった。
 襲い掛かってきた『何か』は、その直後青白い炎に包まれ地面を転げ回り、やがて光り輝いて・・・・後には鈍い光を放つ玉が残される。
 綾はその玉に屈みこむと、袂から札らしき物を取り出し貼り付ける。すると光が嘘のように、すうっと消えてゆく。
 玉を持ち立ち上がった綾を恭也は半ば呆然とした表情で見つめる。ちなみに那美は落ち着いて見ていたようだったが。
 そんな恭也を見た彼女の表情に深い悲しみが浮かんだのだが、でもそれは一瞬で消え、彼女は何時もの穏やかな表情に戻る。
 ふと恭也は普段の穏やかでどこか達観したような感じを与える綾の態度は、中に秘めた悲しみを隠す為のものではないのかと思った。
 だが普段通りの穏やかな表情の綾から、その真偽をうかがい知ることは、恭也ですら出来そうも無かった。
 
 その後、襲い掛かってくる『妖』達を封じつつ、3人は公園奥の丘に近づきつつあった。
 「どうやらこの奥が連中の巣窟らしいな。」
 丘に接近するほど、『妖』の出現の頻度が上がってくる事実から、恭也はそう結論付ける。
 「だとすると・・・持ち出された『封印石』はここにあることになりますね。」
 注意深く丘を見つめながら綾が言う。ここに来るまでに数多くの『妖』を封印したのに、疲れ一つ見せていない。
 「ここの工事、確かずいぶん前から止まっていて、普段誰も近づかないから、何か捨てるにはもってこいですからね。」
 那美がぼやく。扱いに困った犯人達にとっては、最適な場所というわけだ。もっとも周りの人間には迷惑以外の何ものでもないが。
 だがここに来てようやく終わりが見えてきた・・・・3人には安堵の思いが湧き上がってきた。
 がしかし、これで終わりというわけではなかった。最後の難関が待っていたのだ。それも3人にとって最悪な形で。
 「ひぇぇぇ・・・・」
 突然響き渡る男の悲鳴に3人は顔を見合わせる。
 ざぁ!
 草履を鳴らし綾が走り出す。もちろん恭也も負けじと後に続き、二人は丘へ突進する。
 「え?」
 那美は動作が一瞬遅れたが、それでも2人の後に慌てて続く。
 ぎぇぇぇ!!
 たどり着いた二人が見た光景は・・・丘に開いた洞穴らしき所から這い出してくる数体の『妖』達と、それに迫られる数人の男達。
 「あ、あんたたちは!?」
 恭也と綾に遅れて到着した那美が、その男達を見て叫ぶ。
 「私達をナンパしてきた不良学生じゃないの!」
 それを聞いて恭也は、男達が駅前で綾と那美を強引にナンパしようとした連中だったことを思い出した。
 「お、お前達は?・・・・いや何でもいい、助けてくれ!」
 腰を抜かしたのか、這うようにしか動けない男達は、情けない声を上げて恭也達に助けを求めてくる。
 「一体お前らここで何をやっているんだ!?」
 じりじり迫る『妖』達を警戒しながら恭也は男達を詰問する。この辺一帯は立ち入り禁止のはずだ。
 「お、お化けがでるという噂を聞いて確かめに来ただけだなんだよ・・・・」
 「大方、肝試しのつもりだったんだろうが。まったく馬鹿なことを。」
 男達の言葉を聞いて恭也は呆れ果てる。対処する術を持たないくせに危険に近づくなど愚か以外の何者でないではないか。
 「そんな事言わずに助けてくれよぉ・・・・」
 顔面を蒼白にし、がたがた震えて助けを請う男達に那美も呆れたように言う。
 「人の注意を無視しておいて、危険になったら助けを求める・・・貴方達はまったく勝手ですね。」
 口を酸っぱくして忠告したのにそれを聞かず、手に負えなくなると助けを求めてくる、那美はこういった連中を数多く見てきた。
 「神咲さん、彼らの事は後で構わないでしょう・・・・とりあえず眼前の問題を解決しましょう。」
 憤慨している二人を宥める綾、その言葉は落ち着いて聞こえるが、彼女にしては結構きつい言い方が、内心の怒りを表しているようだ。
 「高町様、とりあえず彼らを後ろへお願いできますか?」
 御神刀を構え前進する綾が、恭也の方を見て頼んでくる。
 恭也が肯くと、綾は慎重に『妖』達に接近してゆく。自分に注意を逸らせ、その隙に男達を助ける算段なのだろう。
 確かに『妖』達は目の前の獲物より、自分達に脅威のある綾の方に注意を移すだろう。しかしそれは非常に危険な行為だ。
 だが他に手は無い、無防備な者が襲われればただですまない、恭也もそれが判っているから何も言わずに従っているのだ。
 「そらお前ら、さっさとこっちへ来るんだ。」
 男達に近寄り手を引っ張って立ち上がらせようとする恭也だったが・・・・
 「腰が抜けて駄目なんだよぉ・・・」
 「あんたが連れて行ってくれよ・・・・」
 情けない声を上げて動こうとしなかった。これには恭也は呆れるのを通り越して怒りが湧いてきた。
 「甘えるな!何なら俺が切り刻んでやってもいいんだぞ。」
 「ひぇぇ!!」
 恭也の脅しにちゃんと立ち上がって逃げ出す男達。
 「そんだけ力が残っているならさっさと逃げなさい・・・まったく。」
 後ろにある岩陰に逃げ込んだ男達を見て、那美が眉間に手を当てて言う。もはや呆れ果てて怒る気にもなれないらしい。
 「助かります高町様。貴方もお下がり下さい。」
 男達が後方に下がった事を確認した綾が、恭也に言ってくる。
 「わかった・・・・頼むぞ。」
 慎重に後方に下がる恭也。それを庇う様に前進してゆく綾。『妖』達はじりじりと彼女を包囲してくる。
 綾はまだ仕掛けない。那美のところまで下がった恭也は彼女の闘いをじっと見つめる。
 「あんな数の物をどうやって封印するのでしょうか?」
 那美は心配そうにその光景を見つめる。幾多の霊症と戦った事はある彼女も、このような戦いは初めてだった。
 「多分一度にやるつもりなのだろうな。だから連中が集まってくるのを待っている・・・・・」
 一匹づづ封印するような余裕はない、だとすれば複数の敵を技の範囲に入れ、一瞬で封印する。
 恭也は綾のやろうとしている事がよく判った。何故ならもし同じ状況に置かれたら自分だって躊躇無くその方法を取るからだ。
 もし一匹でも逃せば恭也達が危険に晒される。だから綾は自分の身の危険を省みず、敵を引き付けているのだ。
 その状況に恭也と那美はただ見ている事しか出来ない、綾が負けないように祈りつつ。
 どの位時間が経ったのか、ほんの一分かそれとも十分か、恭也と那美には分からなかった。だが闘いは一瞬で始まり、終わった。
 ギィァァ!!
 「蒼き浄化の炎よ、我に従い、邪気なるものを、封印したまえ・・・・!」
 『妖』達の絶叫と、綾の祝詞を唱える声が交差し、場に凄まじい青の光が溢れ・・・・・
 「きゃあ!!」
 その光に那美が悲鳴を上げてしゃがみこんでしまう。恭也は声は上げなかったが、視界を覆った光に綾の姿を見失う。そして・・・・
 唐突に視界が戻ってくる。
 「神城さん・・・・?」
 呼びかけた恭也がそこに見たものは・・・・鈍い光を放つ幾つもの玉に囲まれて立つ、神々しい巫女服の少女。
 「これが『封印の巫女』・・・・か。」
 恭也はそう呟くのが精一杯だった。第一それ以上何を言えばいいのか・・・・言葉を見つける事が出来ない。
 
 だが次の瞬間上ずった声がその場を切り裂くように響き渡る。

 「ば、化け物だ!」




 あとがき

 大分間が空いてしまいましたが、「海鳴の巫女第四話」をお送りします。お待ちしていた方(居るのかな?)、楽しんで頂けたでしょうか。
 しかし、戦闘シーンというのは、書くのが大変です。特に文章力の無い自分には辛いです、まあ大変なのはそこだけでないのですが。
 皆さんはどうなさっているのでしょうか?

 ところでこの話、次回で最終回となります。果たして最後の言葉の意味は? 力を持つ者の宿命とは?

 それでは次回にお会いしましょう。



どうにか封印石を見つけて…。
美姫 「妖たちも封印できたわね」
しかし、最後に放たれた言葉…。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
しかし、次回で最終回。
美姫 「うぅ、いつもながら、ジレンマが…」
ああ〜、楽しみだが、終ってしまう〜〜。
美姫 「とりあえず、それでも次回を待ってます」
ではでは。



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