『An unexpected excuse
〜シオン編〜
「俺が好きなのは……」
そこまで言って、恭也は空を見上げて、遠い目をする。
「今は遠い空の下にいて、頑張っている人だ」
その恭也の言葉に、美由希たちが反応する。
「それってもしかしてフィアッセのこと!!?」
金髪の歌手で、今は世界にその思いを伝えている恭也の姉的存在の名前を挙げる美由希。
「違う」
しかし、恭也はすぐさま否定する。
「じゃあ、薫ちゃんですか?」
それを聞いた那美が少し遠慮がちに尋ねる。
「薫さんは尊敬する人だが、そういう感情じゃない」
そう言って那美の意見も否定する恭也。
「後ほかにここにいない人で恭也の知り合いの人いたかな?」
忍がそう言って考える仕種をする。
FCの少女達も、次々と挙がる名前が外れていき、休み時間もそろそろ終わりに差し掛かっていたので帰りだす。
「う〜ん……もうほかにいないんじゃ……」
お手上げといった感じで唸る忍。
「って、恭ちゃん自身が言ってくれた方が早いんじゃない!!?」
そこで、美由希が思い出したように叫ぶ。
「ああ、そういえば」
その叫びに、忍もポン、と手を叩く。
「で、誰、恭也!!?」
そして、一気に恭也に詰め寄る。
「それはだな……」
「実に興味深いですね、私にも教えてくれないでしょうか?」
言いよどむ恭也の後ろから、美由希達の知らない女性の声が聞こえる。
その声に皆が声のほうに振り向く。
「シオン!!?」
その人物を見た恭也が叫ぶ。
紫の髪に、紫の瞳をした少女がそこにはいた。
「はい、そうですよ恭也」
名前を呼ばれた少女、シオンはそう言って恭也を見る。
「それで恭也、貴方の好きな女性とは一体どなたの事ですか? ぜひその解答を聞きたい」
少し怒っているような、だけど冷静な声でシオンは尋ねる。
「あっ、ああ(何故シオンは怒っているんだ?)」
少し上ずった声で答える恭也。
とことんまでに他人の思いに疎かった……
「俺が好きなのは、ここにいるシオンだ」
「正しい解答ですね」
恭也の答えに、シオンは満足そうに頷く。
「恭ちゃん、その人とどこで知り合ったの!?」
少し放心した後、美由希は恭也にたずねる。
「それにさっき遠い空の下で頑張ってる人って言ったわよね、そこのところも詳しく聞きたいわね」
美由希に続くように忍も尋ねる。
「言っていいのか、シオン?」
シオンがやっている事がかなり危険なだけにそう口外できるものではない。
だから、恭也はシオンに尋ねる。
「はい構いません、もうそろそろめどが付く頃ですから」
シオンは目を閉じて言う。
「シオンはとある病気のようなものの治療を研究しているんだ」
「病気の治療……ですか?」
那美が不思議そうに聞き返す。
「ああ、詳しくはいえないがその治療の研究をしているから頑張っている、という事だ」
恭也の言葉を聞き、一同は頷く。
「後シオンとはここから少し行ったところの三咲町というところで知り合った」
「そうですね、実に懐かしい思い出です」
シオンが懐かしそうな表情をしながら言う。
「でもシオン、今日はどうしたんだ?」
来る事は聞いていないという恭也。
「いえ、ほんの少しの息抜きです。 恋人である貴方と何日も会っていないと心配もするというものです」
少し顔を赤くしてシオンは言う。
「そっ、そうか……」
対して、恭也も顔を赤くして頷く。
「はいはい、ごちそうさま」
その会話を聞いていた忍が手を叩きながら言う。
「恭也、カバンは私が何とかしとくからシオンさんに付き合ってあげたら?」
「いいのか?」
忍の言葉に、恭也はたずね返す。
「久しぶりに会ったんでしょ? だったら遠慮しないの」
ウインク一つして、忍は笑った。
「そうだな……では、そうさせてもらおう」
頷き、恭也はシオンと一緒に学校を出て行った。
「さぁて、今日は宴会ね」
どこか悪戯っ子のような笑みを浮かべ、忍が言う。
「さざなみの皆さんも誘って、ですね」
それに釣られるように那美も笑う。
「うっしゃー、今夜は腕によりをかけてつくんで!」
「おう、そうだな!!」
レンと晶は今晩の料理の献立を今から考え出す。
「とにかく、私たちも授業に戻ろっか」
美由希の言葉に四人はハッとして、急いで教室に戻って行ったとか。
「で、でてきたは良いが行く場所を考えていなかったな……シオン、どこか希望はあるか?」
「これといって私も目的があって来た訳ではないですからね……恭也の望むままに」
「なら無難なところで、臨海公園などどうだ?」
少し考えて、恭也がシオンに提案する。
「ええ、構いませんよ」
シオンは頷き、歩き出す。
「きょっ、恭也……」
そこで、顔を真っ赤にしたシオンが恭也に話しかける。
「どうした、シオン? 風邪か?」
顔が赤いシオンを見て恭也はそう思いシオンのおでこに手を当てる。
「恭也!!?」
「ふむ、熱はないようだが……どうした?」
不思議そうに恭也は尋ねる。
「恭也……貴方という人は、本当に理解するのが難しい」
溜息をついて、シオンは言う。
「むぅ、軽く馬鹿にされたという事は判るが……」
恭也の言葉に、シオンは苦笑する。
「そんなことはありませんよ」
そう言ってシオンは恭也の腕を組む。
その行為に恭也は驚くが、振りほどくようなマネはしない。
「これぐらいは良いでしょう……恋人の特権です」
少し顔を赤くして言うシオン。
「まぁ、それぐらいならいつでも構わないが」
恭也も、少し顔を赤くして答えた。
そして、二人は歩き出す。
「恭也……先程から周りの人達に見られているような気がするのですが……」
「奇遇だな、俺もそう思った」
二人とも気づかれないように辺りを見回すが、道行く人達は、殆どが恭也とシオンを見ている。
(やはり、私は恭也の恋人としては不適格なのかもしれませんね……)
(やはり、俺などではシオンには釣り合わないと言う事か……)
そんな事を二人して思いながら臨海公園へと少し早足で歩いていく。
周りの人たちが恭也とシオンを見ていたのは、純粋に美形の男女が腕を組んで歩いていたから見惚れていただけなのだが……
あと、シオンの服装(アトラス院の服)も珍しいので、それで更に眼を引いていたのだ。
「いつ来てもここは穏やかな場所ですね」
海から吹く海風を全身に浴びながら、シオンが呟く。
「さてシオン、話してもらおうか?」
ベンチに座りながら、恭也はシオンに言う。
「何の事でしょうか?」
恭也の問いに、シオンは言い返す。
「とぼけるな……何かあったんだろう……来た時からそうだが、どこか辛そうだぞ?」
真剣な眼をして、恭也はシオンに問う。
「ふぅ……貴方は、こういうことには鋭いのですね」
溜息一つついて、シオンは苦笑する。
「恭也が悪いのです……私というものがありながらあんなに女性達に囲まれていて」
俯きながら、シオンは呟く。
「シオン?」
少し肩が震えているのを見て、恭也は立ち上がってシオンに近づく。
「どうしたシオ……」
「恭也!! 判っているのですか!! 貴方には私というれっきとした恋人がいるのにも拘らずあのように女性達に囲まれているとは何事ですか!!」
恭也の言葉をさえぎって、シオンはまるでマシンガンのように言葉を発する。
「いいですか!! これでも私は心配しているのですよ!! 私たちは常に傍に入れるわけではないし、私はこんな体です、いつこの体が吸血衝動に襲われてもおかしくはないというのに!!」
喋っている途中から……シオンの眼に涙が溢れ出す。
「こんな私ではっ……貴方に不釣合いだと思っているのに……貴方は……いつ私から離れていってもおかしくはないというのに……」
「シオンッ!!!」
そこまで一気に喋ったシオンの名を叫び、恭也はシオンを抱きしめる。
「すまないな……お前の気持ちに、気づかなくて……」
まずは謝罪を…
「俺は不謹慎かもしれないが……シオンにそこまで想われて、嬉しいと思う……今のシオンの言葉が、嬉しかった」
次に感謝を…
「だから、俺はシオンの傍を離れる事はない……シオンがそれを拒んだとしても、俺はシオンの傍にい続けたい……」
そして、誓いを…
「恭…也……」
シオンは呟いて、腕に力を込める。
「貴方は……本当に理解しがたいです……何時もこんなに私を心配させるくせに……欲しい時に、欲しい言葉をくれる……」
優しい声で、シオンは言う。
「改めて誓おう……我が御神の剣はシオンの前に立ちふさがる壁を……俺はシオンを悲しませるもの全てからシオンを護ると……」
耳元で、恭也の誓いを聞くシオン。
「私も……この力は恭也のために……私は、恭也と幸せになっていく事を……」
シオンも、恭也の耳元で誓いを立てる。
「シオン……愛している……」
「私もです……恭也」
そして、誓いの印にお互いの唇を触れ合わせる。
「シオン、君を正式に母さん達に紹介する……来てくれないか?」
一度はなれて、恭也はシオンに手を差し出す。
「それはもう……恭也の望むままに……」
恭しく頭を下げて、シオンは恭也の手を取る。
二人は歩き出す……昨日よりも素晴らしい今日を……今日よりも素晴らしい明日を、手に入れるために……
あとがき
ふぅぅぅぅ、やっと書き終えたよシオン編。
フィーア「紫苑さまの次はシオンだなんて、狙ってたわけ?」
いんや、こっちの方が書き始めは早かったんだけど、ネタ詰まりで全然手をつけてなかった。
フィーア「出だしは良いくせに、後が続かないもんねぇ、あんた」
うぅぅ、気にしてるんだから言わないでよ。
フィーア「で、恭也は何で三咲町に行ってたわけ?」
美沙斗さんにね、七夜っていう卓越した体術を持つ一族の生き残りがいるからって言われてね。
フィーア「それを聞いて、修行に行ったと?」
そう、その時がちょうどメルティの時で、シオンに知り合ったってわけ。
フィーア「恭也、吸血鬼なんかと戦えたの?」
まぁ、いろんなところで戦ってるから、大丈夫かと。
フィーア「そういうことにしておいてあげる」
どうも。 では皆さんまた次回で。
フィーア「ではでは〜〜〜」
テレテレのシオン。
美姫 「いやはや、良いわね〜」
うんうん。甘いよ、とっても甘いお話だよ。
美姫 「この後の桃子さんの反応も楽しみよね」
うんうん。まあ、間違いなく宴会に突入するんだろうが。
美姫 「確かにね」
さて、それじゃあ、今回はこの辺で〜。