このSSではとらいあんぐるハートシリーズ、魔法少女リリカルなのはシリーズにおいてネタバレと私自身の個人的解釈及びオリジナル設定が入りますのでこのシリーズを見ていない方やゲームをプレイしていない方にはオススメは致しません。

 

 それでもどんと来いという方のみ下記へとスクロールしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     誰かの想いを誰かに……

 

 

 

     あなたに伝えられなかった言葉がある。

 

 

 

     あなたに伝えきれなかった言葉がある。

 

 

 

     あなたに伝えようとして伝えなかった想いがある。

 

 

 

     あなたに伝えた言葉がある。

 

 

 

     そう……

 

 

 

     この物語は誰かの想いを言葉にのせて紡がれる人々の想いが溢れる物語。

 

 

 

     あなたは『今でも優しい想いで語られる物語は好きですか?』

 

 

 

     『想いをかけがえのないあなたに伝えて』

 

 

     始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      「きっと誰のせいでもないから言葉にできない想いはみんな、うたになる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――守ってくれたひとがいました。

 

 

 


 守るべき大切なひとが幾人もいたそのひと―――

 

 

 


 そんな人の大切な命と引き換えに父や母や医療の加護やいろんなものに頼らなければ生きてさえ行けない。

 

 

 


 こんなにちっぽけなわたしが生き残ってしまいました。

 

 

 


 彼の大切なひとたちにわたしはどんな風に謝ればいいのでしょう?

 

 

 


 彼がくれた命をわたしは一体どんな風に生きたらいいんでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 


◇◇◇

 


  あなたに会えてよかった。

  私はあなたに救われたのだから。

  あなたがいなければ私はずっと……ずっと……ずっと後悔を抱いたまま生きていたから。

  あなたが私と初めて出会ったのはママのスクールに来たときだったね。

  あなたは今も変わらずの方向音痴でスクールに三日も遅刻をしてきたんだよね。

  その時、あなたはママとイリアの前で未熟で魅了する歌を唄っていた。

  確かにあの時のあなたの歌にはまだ足りない部分が多かったのだけれども、私はあなたの歌に惹かれたの。

  それからあなたはスクールの皆と顔合わせをして、関西弁で挨拶をしたのを私は今でも覚えているわ。

  あの時はイリアが訳しずらいとぼやいてたのが少し楽しくて、クスリと微笑を浮かべて代わりに私が訳したのをあなたは覚えていますか?

  あなたは覚えていないかもしれないし、覚えているかもしれない。

  今となってはどちらでもいいのかもしれないけれども、私としてはあなたの記憶の中にいたいと思う。



  私はあなたのことを……


 ―――姉のように慕い


  ―――歳の離れた親友と思い


  ―――歌い手として魅力であり


―――人間の−人として尊敬する


  数少ない一人なのだから。

 

 

 

 

 

 

 


◇◇◇




  私は自分が嫌いだった。

 


  どうして……

 大好きな家族から愛しく思う人の大切な人を奪ってまで私は生きているのだろう?



  どうして……

  小さく、弱くて何も持たない私を庇いまでしてあの人はいなくなったのだろう?



  どうして……


  私は黒くて汚れた翼を持って生まれて生きているのだろう?


 

 


  私がこの黒くて忌まわしい呪いの翼を持つ限り、私は後悔と懺悔で泣きたくなる。

  あの時、誰がなんと言おうとも私はあの優しく、愛おしく、居心地のいい家族から大切な人を奪ったのだから。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇


  あの時、私は浮かれていた。

  パパが主催するパーティー会場でエリスとともにはしゃいでいた。
  パーティーが始まる前に言われていたのに、その時には私は忘れていた。

  どうして……

  あの時、私は忘れていたのだろう。

  士郎から、パパから
 
 『はしゃいでもいいが、傍から離れるな。』

  大切に……

 念を押して言われたのに……

  私はいつのまにか、離れていた。
  もう二度と掴むことができないあの温かくて優しくもゴツゴツとした大きな大きな手を……

  その後、エリスがあの『あいつ』に出会って「くまのぬいぐるみ」と「大きな花束」を受け取り、大勢の人達がフラッシュをたく中で花束をパパに渡そうとして事件は起きた。

  その時、私は娘であるが故に特等席と言える場所にいた。

  そう……パパのすぐ近くで見ていたのだから。

  死への手招きに使われたのは凶器。

  士郎と恭也の不破、美由希、美沙斗の御神の名を受け継ぐ者にとって忌まわしき生きる者への最悪な代物。

  その名を通称『爆弾』と呼びました。

  私はそのエリスが渡そうとしてるのを微笑みながら見ていたその時、私の目の前を黒い影が覆い隠した。

  そして……爆発音と阿鼻叫喚の悲鳴。

  私は最初、何が起こったのか全くわからなかった。

  爆発の炎と煙の匂いと優しい声で私を心配する士郎がいた。


「……無事かい……?良かった―――……」

 


  私は首を縦に振るだけで泣きたくなり、士郎に抱き着いて背中に手を回して気付いてしまった。

  私の手に染まる赤を……

  ヌルリとした嫌な感触に私は目を逸らしたくなる。

  それでも私は目を離さなかった。

 離せなかった。

  私を優しく抱きしめてくれている大好きな人が温かさを失っていったから。

  傷ついた体で血が少しずつ確実に失われていくのに士郎はいつもと変わらずに優しく力強い声で私を慰めて励まして、私をあの大きく温かい手で撫でてくれたの。

  私はそれが嬉しくて……

  私はそれが悲しくて……

  私はそれが寂しくて……

  感情は理解したくないのにどこかで理解してしまったの。


  士郎がもう長くはないことを……

 悟ってしまったその瞬間に私のなかで走馬灯のようなものが駆け巡る。

 

 否定したいのに否定できないナニカが私の中ではじけた。

 

 

        ***

 

 

 庭で動物たちと朝食をとるのが好きだった私にあの人はよく付き合ってくれた―――

 

 

 「よ、フィアッセ。となりあいてるか?」

 

 

 そう気さくに話しかけてくれて、小さかった私にいろんな話をしてくれた。

 

 お菓子作りが上手な奥さんのこと、家族のこと

 

 その中でも気になったのがより少し年下の彼の子供たちのこと。

 

 父親にそっくりなやさしげで強いまなざしの二人。

 

 きょうだいができたみたいで幸せで休みのたび、日本に遊びに行くのが楽しみで仕方なかった。

 

 わたしたちは家族みたいに過ごしてて、いっぱい笑って、いっぱい遊んで、うたをうたって―――

 

 

        ***

 


  だから、私はその場で崩れ落ちる士郎を見てフィンを広げていました。

  呪われたと思っていた私だけの黒い翼。

  名称  AS−30「ルシファー」

  忌まわしい私の呪い。

  私は叫んだ。

  目の前のことから目を背きたくて。

  私は嘆いた。

  優しくしてくれた士郎に何もできなくて。

  私は逃げたかった。

  呪いの翼を否定したくて。

  今でも覚えてる。

  士郎の優しさを……

  士郎の大きな手を……

  士郎の背中を……

  だから私は願うの。

  悲しいことが起きないように。

  寂しいことにならないように。

  泣きたいときに泣けるように。

  私は忘れない。

  私を護ってくれたあの大きな背中を―――

  私を護ってくれたあの優しい背中を―――

  私を護ってくれたあの強い背中を―――





   ☆☆☆



  あの時から二年……

  私はママの奨めでママが経営するCSS(クリステラ ソング スクール)に住んでいた。

  私はいまだ落ち込んでいた。

  幼なじみのエリスや友達のアイリーン、CSSの皆が何度か声を掛けてくれていたのにも私の心は晴れなかった。

  私の中にあの時の士郎の姿が焼き付いているからだ。

  この時の私には士郎が私を庇った理由がまだわかっていないからだったの。

  私に生きる意味などある訳がないと決めつけて自分自身に絶望していたから。

  今、思うとなんてバカなんだろうって思う。

  だって、そうでしょう?

  私たちの世界は優しくなんかない。

  けれども、私の周りには優しい人達がいる。

  それだけで十分なんだ。十分だったんだ。

  私はそれに気付かないで、一人で、たった一人でずっとあの時、あの刻から私の時間は止まっていた。

  私はそれを罪だと思い込むことで逃れようとしたの。

  でも、間違いだった。

  私は止まったまま、動こうとしなかった。

  怖かったんだ。

  もし、私が動いてしまうことになったら私はもう許されないと思ったから。

  私は許してもらいたかったの。

  大好きなあの人から目標となる大切な人を奪ったことを……

  大好きなあの人から大切な人に追い付き、追い越すという夢を奪ったことを……

  大好きなあの人から護るべき家族を奪ったことを……

  でも、彼は言った。

  『父さんは「御神」の剣士として誇りを持って働いた。フィアッセのせいなんかじゃ断じてない。だから―――』

  私は彼の言葉に少しだけ……ほんの少しだけど、救われた気がしたの。

  それでも私の中にある闇は晴れることはなかった。

  私は誰に許してもらいたかったのだろうか。

  私は罪を認めて欲しかったのだろうか。

  私はいつになったらこの黒くて呪いの翼から解放されるのか。

  そんな時だった。

  太陽のような温かい笑顔とともにあなたがママの生徒としてあの家族と同じ国からやってきたのは。

  あなたはいつも笑っていて……

  あなたはいつも皆の中心にいて……

  私はあなたが来たときは、まだ生徒として活動はしていなくて、裏庭に一人でいた。
  小さな白いウサギと一緒に。

  ご飯の残りを貰ってわけてたときに私は小さな小鳥の囀りのような声で歌っていた。

  誰に聞かせる訳ではなかったから。


  あのとき、心の赴くままに……

  どのくらい歌っていたのだろう。

  気付いたときにはあなたが私のすぐ傍で嬉しそうな顔で私の歌を聞いていたのをあなたは覚えてる?

  まだ私の歌を聞いて喜んでくれる人がいて、嬉しかった。

 

それからはときどきだけども。あなたはわたしと一緒に過ごすことが多くなってきたころに私の中にあるモノが思い出されてはリフレインされていく。

 

 その日はあのときの悪夢が出てきて何度も何度も夢の中で士郎が私を守って冷たくなっていく感触に私は何度も何度もベットの上で跳ね起きた。

 

 あの日から私はもう上手く笑えないし、歌うことができない。

 

 まだ、たった二年前―――

 

 だけども、もう二年前―――

 

 このときの私は本当に死の呪いに取りつかれているのかもしれない。と思い始めていた。

 

 私の背中にある黒くはためく「死の呪い」に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなときだった。

 

 私はいつものようにいつもと同じ場所にいるときに草を掻き分ける物音がしたのは……

 

 その先から出てきたのは士郎と同じようにご飯を片手に持ってきたあなただった。

 

 あなたはいつものように私に声をかけてきて―――

 

 

 「あー、いたいた。フィアッセ、おとなり空いてるかー?」

 

 

 その姿は似てもいないのに士郎の姿を思い出してしまった。

 

 死の呪い―――この子はきっと災いを生む黒い死の呪い

 

 その姿を見たとき、私はその場から逃げ出してしまった。

 

 あなたが慌てた声で私の名を叫んでいたことにも気付かずに……

 

 

 走ってるとき、私の中で様々な思考が駆け巡った。

 

 いやだ、もういやだ、いやだよ―――

 

 医者たちは言う。

 

 「こんな形質は世界でも例がありません。恐ろしい症例です―――」

 

 士郎が笑顔で言う。

 

 「ボディガードだよ。君と君の父さんのジャパニーズサムライ出身の……ね。」

 

 新聞など世間は言う。

 

「テロ未遂」「爆弾」「クリステラ上院議員と娘さんは無傷」「日本人ボディガード一名死亡」

「一名死亡」と各紙に大きく載っていたことを今も幼心に鮮明に覚えている。

 

 士郎の葬式やママの興行についていったときも心無い思ってもいないことを周りの人達は言う。

 

 「よかったね」「守ってもらえて良かったね。」「あなたは無事で良かったね―――」

 

 なんで皆、そんなことを言うのか理解できなかった。

 

 人が死んだんだよ。士郎が私を守って死んだんだよ。なんで、皆は「良かったね。」なんてことを言うの?

 

 誰もわかってない。

 

 誰もわかってくれない。

 

 誰も……誰も……私のせいで士郎が死んだのにどうしてそんなことが言えるの?

 

 幼い私は叫ぶ。

 

 「わたしのせいだよ!!!みんな、わたしのせいだよ!!!

 

わたしがいなければ士郎はきっと死ななかった。

 

  わたしが生まれていなければパパとママを苦しませたり、悲しませたりすることもなかった。

 

  誰も不幸にならずにすんだ―――」

 

 

 あなたが追いかけてきてくれてなにか叫んでいたけれども、錯乱していた私には届かなくて私はさらに叫ぶ。

 

 

 「だって、もういやだ―――!!!

 

  好きな人が死んじゃったり、わたしのせいで誰かを悲しくさせるのは―――……

 

  もういやだ―――いやだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 私は感情に任せて叫んだ。それと同時に私の背中から生まれた時からこの呪われていた黒い翼が現れる。

 

 わたしの周りのひとたちから全てを奪ってゆく黒い呪いの翼―――

 

 その後は私の周りに漂っていた衝撃波を抑えて頬を傷つけてまであなたは太陽みたいでいてさざ波のような穏やかで優しい笑顔で笑ってくれた。

 

 

 「―――怖ないよ……落ちついて―――……」

 

 

 そこで私の意識を途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 私が目を覚ましたのは一日経ってからだった。

 

 あなたがあのとき私を助けてくれてママとイリアを呼んで助けてくれたのを聞きました。

 

 あなたにすぐにでも謝りたかったけれども、私が病院から帰ってきたときにはスクールは夏休みに入ってしまってどうしようかと悩んでいたところで後ろからあなたに声を掛けられたのを今も覚えています。

 

 きっと、このときに私は進むべき道を見つけることができたのだから。

 

 このとき、あなたは生徒で一人だけ残っていてので、おやつを作っていました。

 

 そのおやつはさざなみで作っていた耕介さんから教えて貰ったというミルクマフィンでディップにチョコとママレードがついていてとてもおいしそうだったなと思ったのを覚えています。

 

 あなたはなにも聞かなかった。

 

 私のこと、翼のこと、あなたの頬を傷つけたこと、たくさんのことを……

 

 あなたは言った。

 

 

 「……そうして欲しい?」

 

 

 あなたは優しい温和な雰囲気で。私は話せなかった。なにも言えなかった。さらにあなたは続けました。

 

 

 「イリア先生に少―し聞いた。翼のこととか淋しい事情とか……自分のせいかと思っている?その人が亡くなってもーたのも。悲しいことがあったのも……」

 

 

 私は俯いてしまった。そうだと思っているから。違うと言われても自分のせいなのだと。

 

 

 「フィアッセのせいちゃうよ……悲しい事が起きるんは誰のせいでもない。神様ゆーヒトがおるんやったら単にそのヒトの気まぐれや。泣いても落ち込んでも亡くなった人は戻らへんし、それでこの先何か変わるワケとちゃう。守って育ててくれたとーさん、かーさん、イリア先生。命かけて守ってくれたボディガードの人、士郎さんもみんなフィアッセを悲しくさせるために『生きてほしい』って思ったんとちゃうやろ……?」

 

 

 ……だけど!!!言われてもわからないよ。なんのためかわからないよ。わたしはなにもできないのに……幼く弱いわたしはなにもできないのに……!!!

 

 あなたはゆっくりとわたしに肩を回して、小さな声で語りかけてきた。

 

 

 「―――フィアッセ。―――『君は優しい歌になれ』―――うちが一番好きなうちがはじめての舞台で歌った歌のタイトルや。フィアッセが笑うとなんや優しい気持ちになる。子供の笑顔は親やまわりの大人にはどんな物より尊い大切なたからものや。遠い空の下にいる友達にももっと遠い空の上にいる士郎さんにもフィアッセが昔通りの良く笑って 元気に話す優しい歌みたいなそんな子でいてくれたらそれだけで……ええんちゃうか?それだけで済まない想いがあるんやったらうちらにはうたがある!『悲しい』『うれしい』もみんなみんな歌に乗せてうたえばええ。」

 

 

 わたしは顔をあげて呟く。あなたの好きなタイトルを。

 

 ……君は……優しい歌になれ……

 

 そういうとあなたは笑顔で大きく頷いてくれた。

 

 

 「そや!一緒に過ごすひとたちにいつか出会うひとたちに優しい優しい歌のような―――そんなひとにフィアッセはきっと……なれる!」

 

 

 あなたはそう言ってくれた。私になにができるかわからないけれども、あなたの言うように優しい歌のような人になれるかわからないよ。でも、こんな私でもできることがあるのならやりたいと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇◇◇ 

 

 

 士郎が亡くなって六年、あなたと出会ってから四年の月日が経った頃に私は再び日本へと旅立ち、海鳴の大地を踏みしめました。

 

 海鳴に以前から来なくてはいけない場所だと理解はしていたのですが、そう思うとどうしても心が怖がってしまって亡くなってからようやく六年かけてこの地に降りることができました。

 

 海鳴に降り立つちょっと前に私は友達を助けるために私自身まだ忌まわしいと思っていた翼を広げて限界以上の力を使って喉を痛めてしまいました。

 私のHGSの能力は自分自身の生命力を代償として力を行使するために喉に影響が出てしまったが故に。

 

 そして、私は海鳴に住むHGSの権威である矢沢先生のもとへ行くことが目的の一つ。そこで私は一人の人物と出会いました。

 

 あなたも知る人物。フィリス・矢沢。私の親友の一人です。

 

 担当医として、フィリスはよくしてくれて友達としても接してくれたことは私にとって嬉しいことでした。知り合いはいるけれども、見知らぬ土地で仲の良い友達ができることはとても助かりました。

 

 もう一つ、HGSの治療よりも私にとって重要なこと。

 

 それは士郎への挨拶と感謝と謝罪。そして、家族への謝罪です。

 

 桃子には事前に連絡しているとは言え、最初は一人で行きたかったから一人で海鳴が見渡せる藤見台へと足を運びました。

 

 途中、若干の幼さが残る紫髪の女の子と、後ろに控えてメイド服に身を包んでいる長身の女性。最後に誰もが振り返るような淡いピンク色の肩まで伸ばした優しそうな女性とすれ違ったのがとても印象的だったよ。

 

 もうすぐで士郎が眠るであろう場所まで行くとそこに彼はいました。

 

 手には士郎と同じ小太刀と呼ばれるものを持ちながら、一人なにかを語りかけるように出会ったときと同じような笑顔を浮かべながら一つの世界がありました。

 とても私なんかが入ってはいけないような雰囲気の中、彼はごく自然に私のほうに顔を向け、一瞬驚いたような嬉しそうな表情を浮かべたら一歩後ろに下がって士郎の墓前の前を譲ってくれた。その何気ないしぐさが彼なんだと改めて思ったよ。

 

 それで私は士郎の墓前の前に膝をついて、親日家であるママとパパから教えてもらったように手を合わせ、士郎を想い、謝罪と感謝と様々な複雑な気持ちが入り混じって泣きそうになるのを堪える。

 

 そうでなければ彼の目の前で泣いてしまうから。

 

 私は顔を上げ、彼に悟られないように心の中で流れていない涙を拭って言葉を紡ぐ。

 

 

 「久しぶり……大きくなったね―――」

 

 

 私がそういうと彼は照れくさそうにしていたのがとても印象的で私は彼に二度目の恋をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 それからまた時は流れて多くの人に出会いました。

 

 治療の合間に桃子が営む『喫茶・翠屋』を手伝い、歌手活動として復帰を目指し、皆に私の翼を知られたり、様々なことを経てその時は来ました。

 

 それはママの最後のチャリティーコンサート。

 

 コンサートを準備していく日々が過ぎていく中、ある人が私たちの前に現れます。

 

 あなたも知っていると思うけれども、彼女は私たちに対して中止することを警告してきました。けれども、ママは受け付けず予定通りに行なうことを伝えます。

 

 そして、当日。

 

 結果はあなたも知っている通り、彼女は止まり、また闇に紛れて姿を一時的に消しました。私たちは無事にステージを成功させ、コンサートを終えて世界を回ったことはつい最近のことのように思い出せます。

 

 いつだかママが言っていたこと覚えていますか?

 

 

 「うたを歌うってことはね……自分の魂を、ひとに届けること。だから、あなたたちは歌いなさい。自分の想いを魂にのせて届けたいと思う人達に、聞いて欲しい大切な人達に歌って奏でなさい。あなたたちにはそれができる技術と魂を私から受け継いだのだから。」

 

 

 だから私はママの後を継いで今このCSSで校長としての責務に励んでいます。

 

 そして、ママが亡くなり、私が校長に赴任して初めてのチャリティーコンサート。私はまた狙われました。

 

 その相手とは士郎を殺した爆弾の首謀者であるファンと雇われた暗殺者グリフ。けれども、また私は彼とエリス、美由希に護られました。

 

 本当に感謝をしても足りません。だから私は思うんです。

 

 私は皆が大好きでいつでも彼の元に行きたいと思うぐらいに。

 

 だから私はいつも「うた」にのせて歌うんです。

 

 私の想いが大好きで大切な人達に届くように精一杯歌って風のようにうたを届けたい。

 

 だから、私をいつまでも見ていて欲しい。

 

 私が「うた」を届けられているかを―――

 

 

 

 

 

 私はあなたが言ったようになれていますか?

 

 私は優しい歌になれていますか?

 

 私の歌(想い)は世界に届いていますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Dear ゆうひ                 フィアッセ・クリステラ より

 

 

 


    あとがき

 

 ふぅ、終わった。

時雨「随分時間かかったわね。」

 ああ、書いていくうちになぜか話の内容が膨らんでしまってな。結果として予定より一ヶ月も遅れてしまったのだよ。

時雨「へぇ、めずらし……」

 ん?どうした?黙って……ぶふぉ。な、なにをする?

時雨「なんでってこれ次UPするのと予定が違うじゃない。」

 それはだな……こっちの方が楽しくなってきたからだ。

時雨「ばかーーー!!!ふぅ、で今回の説明は?」

 えっと、今回フィアッセの一人称での一人語りの手紙になるんですかね?今回作中で「あなた」と称しているのが差し出した相手になるSEENAこと椎名ゆうひで、「彼」と称しているのが恭也です。

 でも、書いていて思ったことなんですが……苦しんでいる人の苦悩って文章に記すことのできないものなのではないかと思います。苦しみは同じ立場に立つ者ならばわかり合えるのかも知れませんが、最終的にひとは孤独だと私は考えています。だからこそ他者との関わりを持ち、心があると思っています。表現することが難しいのですが、今までの作品の中で苦しんでいる姿を文中でも書いていますが、私の文章力では足りない部分が多々あって伝えきれていないと私自身思っていることでもあります。

時雨「へぇ……あんたも考えているのね。」

 そりゃ、色々ありますので。

時雨「んじゃ、さっさと書く。でないと小遣い減らすからね。」

 ちょっ、なんで時雨が財布握ってんの?おい、返事しろ。おぼぉ……

時雨「はい。リレーSSとは順番が違いますが、第三弾になります。楽しんでいただけたでしょうか?次回の読み手は誰になるかは未定ですが、なるべく早めに投稿させるので美姫お姉さまに頼みたいのですが、テンションがハイになってギリギリのとこで保てるようなアレ系のクスリを持っていないでしょうか?実験台はたくさんの生け贄(執筆者)がいますので試作品を作るにはもってこいですよ。」




今回はフィアッセ〜。
美姫 「静かな、それでいて優しい文章ね」
だな。本当に素晴らしい作品をありがとうございます。
美姫 「アンタもみ……」
おおう! もうこんな時間だ!?
美姫 「どんな時間よ!」
ぶべらっ!
美姫 「そういえば、時雨から頼みがあったわね」
怪しい薬の事か。そんな物持ってるわけない……よね?
し、知らない間に使われたりとか……。
美姫 「いやー、流石にそれはないわね。そもそも、アンタのテンションを上げるのは簡単だし」
それは褒めてないよな。と言うか、寧ろバカにされているのか?
美姫 「いや、実際に簡単じゃない。こうして着替えると……」
おおっ! メイド! いやはや、相変わらずの早着替えご苦労さん。
しかも、今回はクラシックタイプですか! いやー、もう意味もなく叫びたくな――ぶべらっ!
美姫 「まあ、そういう訳で私は薬は持ってないのよね」
う、うぅぅ。別にテンションが上がっているんじゃなくて元気になってるだけだよ。
美姫 「はいはい。そんな訳で、薬関係では力になれないわね」
さあさあ、そんな事より――ぶべらっ!
美姫 「それじゃあ、また次回を楽しみしてますね〜」
ではでは。



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