剣士と守護の楯
第二話 「ISCO」
「だ〜はっはっはっは、何度見ても笑える〜。」
「ひぃひぃ、これ以上笑わせないでよ。シールド9。」
先ほどからシールド9の上司である課長と部外者のはずである銀髪の美人ともいえるリスティ槙原が笑い転げている。
「シールド9、鼻血を出してぶっ倒れるムービー。」
「これはAVIにエンコードしてDVD−Rに焼いとかないと。課長、これ焼いて貰えるかな。」
「・・・♯。」
先ほどから二人の目の前でこめかみをヒクヒクさせ、なんとか表情を作っているのはシールド9である如月修史その人である。
「もちろん、リスティ君には優先的に焼いて渡しとくよ。帰る頃には渡せるようになってるから。」
「サンクス。楽しみにしてるよ。これで今日の真雪との酒の肴ができた。」
哀れ、修史。既にリスティの中ではさざなみの支配者である真雪との肴は決定らしい。
「そ、そんなに楽しいですか、人の不幸が。」
「「めっさ、楽しいよ。」」
二人そろって、即答。
ちなみにあの変装で作戦の立案の大元はこの二人である。
立案時は二人だけだったのだが、どこから話を聞いてきたのか他のシールドナンバーと上官が数人加わり、終始笑いが絶えなかったという。
「怒るなよ、しょ・う・ね・ん。ふぅ〜。」
「ひゃあ、何するんですか。リスティさん、それに俺は少年じゃありません。」
「どう見ても少年だろ。」
「俺は立派な成人男子です。」
確かに成人男子ではあるのだが、今は学生服に身を包んでいるので高校生にしか見えない。
「ってか、そのビデオもろもろ消して処分してください。今すぐに。」
「新米エージェントの活動記録を保存し、分析するのは上司の義務だぞ。」
「課長の言う通りだ、修史。この後、会議に最高経営会議で上映予定だ。」
言っていることは正しいのだが、顔は緩みっぱなしだ。ちなみに最高経営会議とはアイギスが経営する上で株主やらとの相談等を行う会議である。
「……」
「あ、なにその目は。反抗的、むかつく〜。」
「上司にその目はいけないぞ、修史。」
「お二人の気のせいです。」
修史はふぅっと溜め息をついて学ランの第一ボタンを外した。
「……さて」
途端に課長の顔が真面目になる。
「ご苦労だったな、修史。クライアントもお前の活躍には満足もとい、ごちそうさまとのことだ。」
「……ごちそうさまってなんですか。」
一人ごちる、修史。その呟きは誰にも届かない。
「アイギスの名に恥じない素晴らしい働きだった。」
「……!!、ありがとうございます。」
「でもね〜最後がね、鼻血出してぶっ倒れるのはどうだが。ま、護衛なら最後まで油断大敵ってことだ。どんなときも最後まで気を抜かない。」
「チュ〜されても気絶しない。……なんならボクと練習するかい、修史。」
「は……しません、断固拒否します。」
手をぶんぶん振りながら後ずさる修史。
「相変わらずだね、女が苦手なのは。女として傷つくよ。」
「べ、別に苦ってわけじゃないです。ただ……その、あんまし免疫がないので。」
「そーゆーのを苦手というのだよ、少年。」
リスティはタバコに火をつけ、一口吸った。
課長も苦笑しながらジョリジョリとアゴひげを撫でた。
ここは警備会社「アイギス」
一般家庭から一流企業まで幅広く警備を行っている。
現在では世界の中でも表としての警備会社としては英国に本社をおくマクガーレン・セキュリティー・サービスとまでは有名とはいかないがそこそこの扱いをうけるまでに成長をした。
しかし、これはあくまで表向きのアイギスだ。
アイギスには裏の顔があり、警察を信用できない特殊な要人の護衛を請け負い、場合によっては銃器などの類を扱うことや殺人許可証を認可している。
非合法としての「護り屋」としての顔がアイギスの裏の顔だ。
そのセクションである特殊要人課がココなのだ。
仕事の内容が内容だけにここにはあの「法の番人」とまで言われている「香港警防隊」にも負けず、劣らずの面子が揃っている。
「う〜ん……」
「なんですか、課長。」
「やっぱりイイ、イイヨ。その学生服似合ってる、似合いすぎ。超最高GREAT。」
親指をたてて笑顔全開の課長を見て、顔が引きつった。
「うちの修ちゃんは可愛いからそういうのも似合っちゃうんだよね。」
「……この馬鹿親父。けなされている気分だ。」
護衛の際、弾丸の遮蔽用に鉄板入り学生鞄を用意したからと言われ、セットで学生服も用意されていたのだが、課長の趣味で着せたらしい。
ちなみにこの活躍映像は「修ちゃん、成長記録Vol,256」に保存された。
「俺はすっかり大人だ。成長記録はもう必要ない。」
「私の老後の楽しみを奪うつもりか、修史。」
「あんたの楽しみなんか知ったこっちゃない。人の不幸を喜ぶ悪趣味を早くやめろっちゅーとるんだ。」
「修史、人の不幸ほどおいしい蜜はないぞ。」
「リスティさんもやめてください。」
「えええ〜、修ちゃん冷たい〜。」
実はここにいる課長こと神崎恭一郎は如月修史の父親代わりである。
孤児で毎日生きるか死ぬかの日々を送っていたとき、修史を引き取りここまで育ててくれた人なのだ。
とても有能で情に厚い人物であるのだが、先ほどのやり取りを見る限りでは、趣味がいい……違った、悪い。
昔、修史に「パパ」と呼ばせようとしたのも成長記録にしっかりと残っている。
「おふざけはここまでにしよう、仕事の話だ。」
きりりと課長の顔が引き締まる。
「次の任務―ですか?」
「そうだ。お前にしかできない特殊な任務だ。」
「うん、修史でないとこの任務は依頼主に断るしかないんだ。」
「課長、リスティさん。・・・俺にしかできない任務。」
修史にとって二人の言葉はとても胸が高鳴った。
新米、若造など言われ続けてきた修史に判断力を低下させるには十分だった。
さぁ、修史限定だが悪魔のカウントが始まった。
「やってくれるか。」
「課長、リスティさん、是非やらせてください。」
二人はとても嬉しそうに頷いた。なぜだが、悪魔の尻尾が見えた気がした。
カウント 3
「あれ……」
「どうした、修史。」
「気のせいです、なんでもないです。」
「そうか、では任務の説明をしておこう。」
「はい。」
「……っとその前に」
課長がデスク上に内線電話をかけ始めた。
「ああ、私だ。修史が帰還した。例の潜入キットを頼む。タイプはISCOだ、間違えるな、ISCOだ。」
カウント 2
「潜入任務なんですか。」
珍しい。
修史は経験がまだ浅い。通常なら潜入護衛任務にはそれなりに熟練したエージェントが単独での護衛任務になるケースが多いからだ。
今回のセシリア護衛任務も修史だけでなく、数名だがアイギスから護衛がいた。他にもリスティさんの紹介で恭也もいた。
「詳しい話は装備が到着してからだ。まぁ、今回はかなりハードな内容だろう。」
「失礼します、例の装備をお持ちいたしました。」
カウント 1
持ってきたのは、コールサイン シールド3の宗像。元アマレス王者で課随一の豪腕怪力の持ち主である。
「早かったな、ではさっそく頼む。」
「はっ。」
「OK。」
カウント
0
スタート
リスティがフィンを展開させる。
背中には三対の六枚の金色の羽。
「Restriction」
言葉とともに修史の体は動かなくなった。
「えっ、ちょ、リスティさん。」
「悪いね、命令なんだ。」
「リスティさんが命令を聞かなくてもいいでしょ。って先輩はなにをしてるんですか。」
「動くなよ、修史。」
その瞬間に乱暴に引き取られた。
「いやぁ〜〜〜〜、やめっ、ちょ、どこ触ってるんですか。」
その光景を笑いながら見てるリスティと課長。そして、顔を赤くしながらチラチラと顔を向けているオペレーターの女性数人といつのまにか野次馬と化したアイギス職員。
「こら、暴れるな。」
「やめ、ちょ、・・・あっ。」
「な〜に、天井のシミでも数えてればすぐにでも終わるさ。」
「いやぁ、すね毛まで剃らないで〜。」
「後は、忍特製のこれを飲ませれば。」
「なにその怪しい薬みたいなのは・・・いや〜〜〜〜〜〜〜〜。」
アイギス内に修史の悲鳴だけが響いた。
「課長、装着完了いたしました。」
「うむ!ご苦労だった。リスティ君もありがとう。」
「このくらいどうってことないよ。」
「な、な、なん、・・・」
「見るがいい、修史。」
課長はそういうと修史の前に鏡を置いた。
当然、修史は覗き込む。
「なっ・・・」
絶句。
「ご注文通り、ISCO、整えております。」
いつのまにかモニターにはISCOの文字が浮かんでいる。
課長の後ろにはアイギス職員がまるでバックダンサーのように並んでいる。
課長が叫ぶ。
「I」
「I、 田舎っぽく素朴で。」
オペレーターが復唱と説明。
一斉に踊り始めた職員。
あれはもしや○富○。
モニターにはIの文字が。
「S」
「S、そばかすの似合う女の子。」
先ほどと同じようにモニターにはSの文字。
職員は先ほどとおなじように踊り続けている。
修史は呆然と、リスティは笑いが止まらないらしくお腹を押さえている。
「C」
「C、ちょっぴり見た目はダサいけど。」
「O」
「O、お好きな人にはたまらんですタイ。」
終わったらしい。
アイギス職員はなにもなかったようにオペレータールームから出てっていった。
オペレーターも既にいつのまにか仕事に戻っているが、やはり修史の容姿が気になるのかチラチラと顔を時折向けていて顔が赤いままだった。
「まさしく、ISCO。期待通りだ、宗像。」
「はっ、恐悦至極に存じます。」
「……」
「どうした、修史。自分で見惚れたか。」
「おんな、女〜〜〜。なぜ、女なんだ〜。」
修史が叫んだ。
「似合うぞ、修史。」
「ああ、似合いすぎだ。修史。」
「着替えさせている最中は何度襲いかかろうとしたか、似合っているぞ、修史。」
「似合っていますよ、修史君。」
上から課長、リステイ、先輩の宗像、オペレーター達からお褒めの言葉を頂いた修史であった。
あとがき
時雨 「遅いわ、咆孔。」
uppers「ぐほぉ、いまの・・・技は。」
時雨 「晶ちゃんの孔破とある技を合わせたものよ。」
uppers「そんな危ない技組み合わせるな。つか実験台にするな。」
時雨 「あら、私を含めてあとがきキャラは技や道具を開発したら作者を実験台にして、方法などを教えあうのが暗黙の了解らしいわよ。」
uppers「そんな了解いらん。つか、いずれ美姫さんとかのも来るのか、ガクガクブルブル。」
時雨 「そういうことよ、楽しみにしといてね。で、他に言い訳はあるかしら。」
uppers「言い訳ってレポート類はしょうがないだろ、最近また増えたし。つか卒論が終わるか怪しくなってきたぞ。」
時雨 「そんなものいいから書け。いつ潜入するのよ。恭也なんて今回出てないし。」
uppers「次回は出るよ、多分。」
時雨 「前回、私を書かなかった分も合わせて、書け〜。」
uppers「ぐふっ、がはっ、ごほっ、ぴぎゃ。裏拳からハイキック、回し蹴り、ガゼルパンチに踵落としかよ。・・・無念。」
時雨 「それでは次回をお待ちくださいね。」
前の報告と同時に、絶望な状況に追いやられる修史。
美姫 「似合っちゃうのだから仕方ないわよ」
ないのか……。
さてさて、潜入任務につく事になった訳だが。
美姫 「これからどうなるのかしらね」
うんうん。次回が楽しみです。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。